昔地球は青かった

男は目の前の冴えない女を見た。女の顔は蛍光灯で青白く濁っていた。
名前は？男がなげやりに問う。
江西・・・ゆかりです。
男はハッと大きな息を吐いてユカリ！と言った。書類に目をやるとやはりそうだ、2165年生まれ、いわゆるユカリ世代だ。
ゆかりは今まで何度もそう言われ続けてきたのか申し訳なさそうに下を向いた。

2165年は人類にとって大転換期だった。
物理学者のユカリ・トコロ教授が相対性理論以来の物理法則を発見し、その応用として物質転送装置が開発された。これで汚染された地球から脱出できる。それは人類が長年待ち望んだ瞬間だった。教授は一躍世界の救世主となり、その年に生まれた世界中の子供達は皆ユカリと名付けられた。

しかし2年後、世界の権力者達と教授は人類を残して姿を消した。

ハッともう一度大きな息を吐いて男は言った。うちの仕事はきついぞ。
別に女に責はない。地球の青さを取り戻すためだ。