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一昔前には「通勤」という言葉があったらしい。
今では考えられないことだ。
仕事のためにわざわざ電車に乗るなんて。
ずれたヘッドフォンをなおして男は考える。
ヘッドフォンにはマイクが付いていて、仕事相手と繋がっている。
今では家で仕事をするのが当然だ。
社屋が無駄であるとしてそもそもないので、社員は入社から定年退職まで、家で勤務する。
「ねえ箱根で温泉にでも入りましょ。冬だし」
そんな彼女のかわいらしいお願いで外に出る。彼女の顔を直接見るのも久しぶりだ。生身の彼女は香水の香りがした。
電車は楽しそうな顔の人々で満ちている。家族連れ。友達同士。電車は楽しい予定にわくわくした人しか居ない。
「昔は通勤電車というものがあったそうだよ」
「なあにそれ。働くために電車にのるの?」
「ああ。だからずいぶんみんなしかめ面だったらしい」
彼女は「電車に乗っているのに変なの」と笑った。
今では考えられないことだ。
仕事のためにわざわざ電車に乗るなんて。
ずれたヘッドフォンをなおして男は考える。
ヘッドフォンにはマイクが付いていて、仕事相手と繋がっている。
今では家で仕事をするのが当然だ。
社屋が無駄であるとしてそもそもないので、社員は入社から定年退職まで、家で勤務する。
「ねえ箱根で温泉にでも入りましょ。冬だし」
そんな彼女のかわいらしいお願いで外に出る。彼女の顔を直接見るのも久しぶりだ。生身の彼女は香水の香りがした。
電車は楽しそうな顔の人々で満ちている。家族連れ。友達同士。電車は楽しい予定にわくわくした人しか居ない。
「昔は通勤電車というものがあったそうだよ」
「なあにそれ。働くために電車にのるの?」
「ああ。だからずいぶんみんなしかめ面だったらしい」
彼女は「電車に乗っているのに変なの」と笑った。
SF
公開:20/10/15 05:56
更新:20/10/15 06:06
更新:20/10/15 06:06
SFとミステリが好きです。
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