蝦蟇の油

商店街で蝦蟇の油を買った。
油売りは人の良さそうなおっちゃんで口上が大層上手かった。
特に、えい！やっ！とう！と首を切る場面では本当に首が落ちたかと思った。
その光景は商店街にはおよそ似つかわしくなかったが他に誰も気に留める者はなかった。
近頃全然売れなくてねえ。油売りは寂しそうに笑い、これおまけねっと福引券を多くくれた。
蝦蟇の油で旦那のギャンブル癖、治るかしら。と言ってみた。
治らんねえ。
息子の引きこもり、治るかしら。
治らんねえ。
お爺ちゃんの痴呆、治るかしら。
治らんねえ。
切り落とした首は治るのよね。
そりゃ治らんよ、もう手遅れさ。油売りは笑いながら言った。
あら残念、治ると思ったのに。私も笑った。
それはそうと奥さん、血まみれだけど大丈夫かい？
大丈夫よ私の血じゃないもの。
帰ろうと歩きだすと
そうかい、福引当たるといいねえ。1等はベガス旅行だとさ。呑気な声が追いかけてきた。