犀涙雨(さいるいう)

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散歩中、にわか雨に叩かれて木陰へ避難。
ツイてないな、天気予報晴れだったのに。びっしょりのスカートつまんで溜め息。
風邪ひく前に帰んなきゃ。小やみになった空につま先立ちして、家まで1キロくらい?まだ屋根も見えない。
風向きが変わって、ふあんと甘い香りが一筋。
気付かなかった、この木キンモクセイなんだ。近所の公園にあるって、彼、言ってたっけ。まだ行った事ないけど、向こうはもう咲いてるかな。

見上げた枝に、あのオレンジの花は一輪も咲いてなかった。
こんなに強く香るのに、別の場所から運んできたの?キンモクセイの別名は九里香。これも彼が教えてくれた。中国の一里は580mくらいだから、5キロちょっと。――10倍なんて届くわけないよね。
歩き出したスカートで、髪で、潤んだ視界で、甘い香りが揺れる。
雨雲なら届くのかも知れない。早足になりながらポケットを探る。
理由なんていい。今、すごく声が聞きたい。
ファンタジー
公開:20/10/16 11:19
散歩道で見た シーズン3-② 金木犀(キンモクセイ)の香り雨 催涙雨/酒涙雨

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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