世界で一番大切な人

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少し古びたマンションの一室に、今日も聞きなれた心地良い声が響く。

明日、私の元を去る人ー。

部屋の片隅にまとめられた彼の荷物に淋しさが込み上げてくる。

抑えきれない気持ちを整理をする為、私は手紙をしたためた。


世界で一番大切な人へ

あなたと出会ったのは寒い雪の夜。
今まで見たことも無いような、その美しい澄んだ瞳に、私は一目で恋に落ちました。

雪が溶け、春になって、はじめて一緒に歩いた桜並木、かけ出すあなたを追いかけ、かみしめた幸せが今でも忘れられません。

一緒に入った海も、紅葉を楽しんだ秋も、思い出の中にはずっとあなたがいた。

あれから20数年

あなたは私がいなくても大丈夫な歳になりました。

人並みに恋もしたのね。
あなたの幸せは私の幸せなのだから、どうか幸せになって。

結婚、おめでとう。

母より
その他
公開:20/10/16 09:59

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