トンボ

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毎朝使う最寄り駅には、ホームへ降りる階段の脇に縦長の窓がある。最上段から見下ろせる駐輪場で、あなたはいつも大急ぎで自転車に鍵をかけている。私があなたを見つめていることを知っているのは、駅舎に迷い込んだトンボだけ。透明な壁に向かって四枚の翅を震わせている、可哀想なトンボだけ。
毎晩帰ってくる最寄り駅には、改札へ上がる階段の脇に縦長の窓がある。最上段から見下ろせる駐輪場で、あなたは今日誰かと親しげにおしゃべりしていた。私があなたを見つめていることを知っているのは、駅舎に迷い込んだトンボだけ。翅を震わせることをやめたトンボだけ。
休日、買い物へ行くためにホームで電車を待っていると、駅前の広場で誰かと親しげにおしゃべりをするあなたが見えた。その誰かの手は、あなたの手と繋がれていた。私があなたを見つめていることを知っているのは、駅舎に迷い込んだトンボだけ。蜘蛛の糸に絡まり、二度と飛べないトンボだけ。
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公開:20/10/16 03:05

如月十

きさらぎ とお です。
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