Ⅰ．029 専属を名乗る男～根拠～

「これを俺が？この都で起きた事件じゃないだろ」
「確かに、これは隣都バートルビーンでの事です。しかし、あそこは同盟都で、ヴァント(領壁)もありません。それにセディさんはボーデン(都外領域)出身でしたよね。都侍は５年程前…」
「６年前だ」「わん」
「事件は１５年前。セディさんは１０歳でボーデンにいた頃です。家族旅行で行ったのでは？」
「かもな。手札はそれだけか？」
「まだあります。そっくりなんですよ。"ぺルビエの攻防"と"驚嘆すべき兄弟"が」
「そっくり？」
「ええ。御宝を奪った後に、入り組んだ市街地に逃げ込んでの逃追走劇の流れが。全てね」
「俺は逃げた蒼猫を追っただけだ。それに、入り組んだ場所に逃げ込むなんて珍しい事じゃない」
「偶然の一致だと？」
「俺は偶然なんてものは信じてない」
「わん」わたしもだ。
「だが、それを決定付ける"根拠"は必要だ」
「いえ、これはそういうのではなく…」