殺人医師の事後と、ささやかな願い

　防音室にホースを誘い、水を撒き、洗剤を撒き、ブラシで磨き、水で流し、水を切り、布モップで拭き、ロープを洗い、庭に干し、血で汚れた手錠と鎖とナイフとハンマーとペンチとハサミを中性洗剤で洗う。…いつものことだ。
　
　死後硬直の解けた男を旅行カバンに詰め、車に載せ、１時間かけて海へ行き、預けてあるヨット（簡素なもの）に乗り、沖へ出て、持参した鉄アレイと一緒に、旅行カバンを海に沈める……。
　海底へ沈みゆくカバンを眺めながら――僕は思う。

　僕に残された時間は、おそらくは、ずっと少ない。僕が考えているよりも、ずっと、ずっと少ないと思う。僕が地獄に行くのは構わない。…構わないが、せめて、僕が資金の一部を寄付したベトナムの病院の完成は見てみたい…。

　それに――。

　携帯に届いたメッセージを見る。
『今夜、会いたいな』
　少しでいい、もう少しだけでいい……。もう少しだけ、彼女との時間を……。