美味なるモノ

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真っ暗闇の洞窟で、誰かと誰かが話している。
「それにしても美味かったな」
垂れ落ちそうになった涎を拭う彼は、据わった目であらぬ方向を見ていた。
「ああ。また食いたいな」
そう言う片割れは突き刺すような鋭い眼光のうえ、涎が垂れっぱなしだ。
灯りのない中で、地べたに座り込む二人。
「コリコリと歯応えがあって」
「それでもって中身はジュワッと」
「苦味が多いが、塩気と甘みがほのかに訪れ」
「極楽の米のような旨味が口いっぱいに広がる」
今までに何度も口から漏れた『美味なるモノ』の感想を交互に呟いた。
「もう一度、行くか」
「み、都へか!?」
「当たり前だ」
二人は立ち上がる。『美味なるモノ』を求めて。
「さあさあ、人間狩りだ!」
「待ってろ人界! 逃げるなよ人間たち!」
月光が照らす洞窟。そこから走り出てくる赤鬼と青鬼。
ほのかに灯りが点る彼方の都は、今宵も悲鳴と血肉の地獄絵図になる。
ファンタジー
公開:20/10/13 22:45

加賀守 崇緒( 猫屋敷 )

気まぐれなハチワレ猫です。
頭抱えながら文章を考えてます。
スイカと芋と肉と魚に、お米とお酒、ブドウが好き。
よろしくお願いします。

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