297. みている

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ある時、林檎を齧ったときのシャクっていう音になんだか寒気を感じてしまってから、林檎は嫌いな食べ物になった。
母が丁寧に皮を剥いてくし切りにしてくれても
やっぱり齧るとシャクっていうから
「林檎はもういらない、食べない」って言葉を投げて私はもう二度と林檎には口をつけなかった。
嫌いになった理由を説明しなかったから、母はアップルパイを焼いても私には出さなくなった。
幼い頃から好物だったアップルパイ。

それはシャクっとはいわないから本当はすごく食べたかったけれど、生の林檎だけ寒くて嫌いっていう理由は成立しない気がして、私はそれ以降も興味のないフリを続けた。
アップルパイは甘くてあっかいのに、
アップルパイは母の得意料理だったのに、
なんで私は食べるのをやめてしまったんだろう……。

ごめんねと母の棺に泣いてすがったあの日から、母が描いた林檎の油絵が壁からずっとこちらを、赤黒く見つめてる──。
その他
公開:20/10/15 00:36
更新:20/10/18 16:54

ことのは もも。( 日本 関東 )

日本語が好き♡
18歳の頃から時々文章を書いています。
短い物語が好きです。
どれかひとつでも誰かの心に届きます様に☆
感想はいつでもお待ちしています!
宜しくお願い致します。

こちらでは2018年5月から書き始めて、2020年11月の時点で300作になりました。
これからもゆっくりですが、コツコツと書いていきたいと思います(*^^*)

2019年 プチコン新生活優秀賞受賞
2020年 DJ MARUKOME読めるカレー大賞特別賞受賞
2021年 ベルモニー縁コンテスト 入選

 

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