誰が為の針仕事

母は裁縫が趣味で暇を見つけては何かを作っている。
手先が器用な母は何でも作れる。今、私が着ている服だって母の手作りだ。
さすがに素材の関係でデニムやコートなんかは作れないけど、母が成長に合わせて少しずつ布を足し続けたパッチワーク風スカートは私の宝物。おかげで３０を超えた今でも愛用の代物だ。
母は私のウェディングドレスを手作りしたい、なんて昔から言っていた。
それが叶うなんて誰も思わなかっただろう。
私は母手作りのウェディングドレスを着て、結婚式に出た。
あまりの美しさに参列者は勿論、式場の人達も驚いていた。
式中、母は「デザイナーにならないか」と声をかけられていた。これじゃどっちが主役なんだか…
母は今、子供達の為に針仕事をしている。
小さな服を作ってはボロボロの絵本の中に押し込む。
ボロボロの絵本の中、桃太郎が、かぐや姫が、シンデレラが母の作った衣装を着て今日も子供達を楽しませている。