縁色の結婚

色見本の『縁』の文字に、目を疑った。緑の誤植ではなかった。『縁』はなんというか、よくわからない透明色だった。
「そりゃあ、人の『縁』は色々ですから。喜びの繋がりも因縁の繋がりもあるの。そのうち見えますよ。うちの跡取り息子なんだから」
母はそういうけれど、さっぱり意味はわからない。染め屋の家には色んな染料があるが、『縁』の染料の色はいつまで経っても透明だった。

「ごめんください」
憧れの幼なじみがやってきた。久しぶりの再会に心が踊る。彼女はますます美人になっていた。
頼まれていた『縁』色のハンカチを袋に包んで渡す。ところが、俺はうっかり取り落としてしまった。
「あ！」
思わず重なる二人の手元で、『縁』色のハンカチは桃色に輝きだした。俺は顔が熱くて、俯くしかなかった。彼女も同じのはずだ。

結婚式には『縁』の白無垢と羽織袴。
二人は『縁』色に染められて、神の御前で夫婦になることを共に誓った。