ゆかり織

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公民館の床いっぱいに和紙が敷かれている。「えー、移住者のみなさん丘谷市へようこそ。早くこの地に馴染むため本日は思う存分「り」を書いてください。当市のムラサキ染めを使い本日は紫色の墨を用意しました。」移住者達は遠慮がちに「り」を書き始める。り り り。「もっと好きに書いていいんですよ。」市長の言葉に若者が和紙の上を走りだす。「じゃ、のばしちゃおー。」りーーーーー。和紙の端から端まで使って大きな「り」を書くと「いいね、その払い!」と中年の男性も和紙の上を走りだす。私も。私も。り り りり り りりーー りーーーりりり。和紙の上に大小入り乱れ沢山の「り」が踊りだす。
とその時、窓の隙間から冷たい紫颪が吹きこんできた。丘谷市を見下ろす紫岳から吹き下ろす冷たい風に無数の「り」が宙に舞い、乱れて折り重なって美しい紫色の織物になった。ゆかり織…。ふわりと床に下りた織物にキンとした紫颪の冷たさが包まれた。
公開:20/10/12 19:24
更新:20/10/12 20:16

マーモット( 長野県 )

初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
 

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