閑静な住宅街

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長年の離婚裁判に疲れ果てた僕は、一人、この閑静な住宅街に引っ越して来た。
「あー自由だ!最高!」

今朝は珍しく来客があった。以前の不倫相手だ。
花束を持って、四角い石造りのこの家の前に来た彼女は
「あなたなしでは生きていけない!」
そういうと、持っていたナイフで首をかききり、庭で死んでしまった。

少したって、今度は花束を持って、妻がやってきた。
「罪の意識に苛まれて、生きていられません!」
そういうと、茶色の小瓶に入った液体を飲み干し、泡を吹きながら、庭で死んでしまった。
二度と見たくないような醜い顔だった。

しばらくして、死んだときの顔のまま、妻だけが、この家に住み着いた。
「醜いな。」
僕が言うと、
「あら、あなたも同じような顔してるわよ。同じ毒で死んだのだから。
コーヒーに入れたの気づかなかったのね。」

今日は彼岸の入り。
その閑静な住宅地は花束を持つ来客でにぎやかになった。
ファンタジー
公開:20/10/12 16:18
更新:20/10/13 22:15

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