はじまりのえんとつ

夕焼けを背に、炭だらけのツナギを着た老いた掃除夫が、専用の長いブラシで熱心に「それ」を擦っている。新紙幣のデザイン候補になるほど、有名で見慣れた光景だ。

『はじまりのえんとつ』

煉瓦造りの古い一軒家。屋根から伸びるえんとつを皆、そう呼ぶ。多くの夢見る若者たちが"ある人物"のゆかりの地で、未来を祈る。

夕焼けが少しずつ宵闇に溶け出して、空は徐々に紫がかっていく。

「ザ・ワン、お疲れ様です！」

一人が降りてきた掃除夫に声をかける。

「わしはもう引退の身じゃから…」
掃除夫は照れ臭そうに白い髭を撫でると、手についた炭で黒くなった。

「今はもう君たちの時代じゃよ。若きサンタ諸君」

若者たちの背筋が伸びる。掃除夫にして、ザ・ワン。初代・サンタクロースは目を細める。

ここは聖地。

少年にはじめてプレゼントを渡したゆかりの地にして

サンタクロース、はじまりのえんとつ。