糸電話――✸

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散歩中、背の高い草むらを抜けたところで、顔にクモの巣がかぶった。
「うわっ……ぷ」
勝手に通った僕が悪いとは言え、気色悪いものは気色悪い。ねばつく糸を落とそうと格闘していると、
――ご迷惑をお掛けしております✸
耳の辺りで、ゴソッと這いずる様な声。
――ただ今工事中でして✸
なぜか正面から登場したのは、コガネグモ。まさに工事の看板を思わせる、黒と蛍光の縞々が、ちょこんと頭を下げつつ、ぴかぴかの肢を誘導棒よろしく眼前に翳した。
「工事?」
――ええ、電話回線でございます✸
肢がたぐった金の糸が、向かい合う草と花を繋ぐ。揃って風になびく姿は、確かに電話口のお喋りにも見えた。
「邪魔して悪かった。引き続き頑張ってくれ」
――よろしければ、人間用もございますよ?✸
遠恋中の彼女の顔が浮かぶ。糸を通して、声が交わせたなら。
――工事費はキャンペーン中につき、毎月、虫10匹で✸
「……間に合ってます」
ファンタジー
公開:20/10/11 19:33
更新:20/11/05 00:19
散歩道で見た シーズン3-① コガネグモの糸電話

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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