ゆかり桜

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いつからこんなに弱々しくなったんだろうか。
僕はやせ細ってしまったゆかり桜の木を眺めながら思った。
ゆかり桜は人々の出会いや別れを養分にして美しい花を咲かせる。
町のみんなも僕も、ここでは色んな出会いを経験したものだ。
しかし、そんなゆかり桜も明日で切り倒されることになっていた。
長い年月が過ぎ、伐採しなければ倒木の危険があるところまできてしまったのだ。
気がつくと、最後の姿を目に焼き付けようとたくさんの人が集まってきていた。
ゆかり桜との思い出を辿っているのか、みんな黙ったままだ。
と、
「あっ」
僕は思わず声を上げた。
細い枝の先に、一輪の小さな桜が咲いていた。
もう花を咲かせる力なんてないはず。
僕は直感した。
これはゆかり桜と僕ら全員の縁で咲いた花だと。
穏やかな暖かい風が吹き抜ける。
淡い桃色の花びらがひらひらと舞い、ゆっくりとゆっくりと地面に落ちた。
公開:20/10/11 19:04

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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