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見えない膜のようなものが、会見場を覆っている。ほんの五分前まで、毒にも薬にも足りないような価値薄い雑談があちこちで交わされていたというのに。

なにか前触れのあったわけでもない。ただ皆が、ほとんど同時に口をつぐんだ。嵐を予感した小動物みたいに。遊んでいた玩具が、実は本物の蛇だと教えられて手元を見下ろす幼子みたいに。

あるものは、にやにやと笑い始めた。あるものは何度も咳払いを繰り返し、そのうち本当に苦しくなってむせ出した。スマートフォンをいじり始めるもの、録画機材の具合を再点検するもの、メモ帳を取り出してページをめくり、また元の形に折り畳んでジャケットの内側にしまい込むもの。

会見場には時計がない。皆、何度も腕や、液晶ディスプレイの表示を確かめ直す。互いに目を合わせると、ぎこちなく微笑み合う。

静寂が部屋を満たすと、かつかつと素早い足音が聞こえて、テーブル横の扉がゆっくりと開いた。
その他
公開:20/10/15 07:00
更新:20/10/13 21:03

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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