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気がつくと急行の車内だった。居眠りをしてしまったようだ。薄紫の座席はまばらに乗客が座り、空席が目立つ。
「娘に会いに行くんですよ」
老婦人が丸眼鏡の奥、柔らかな目を細め言った。僕は微笑み返す。
トンネルを抜け、光と共に向かいの車窓から地元の風景が現れた。居眠りの間に、ずいぶん遠くまで来たようだ。
景色が万華鏡の様にみるみる姿を変えてゆく。
自転車を漕ぐ学生服の青年。その先の坂は急だが、難なく登っている。
中学校のグラウンドを走る少年。遠くなのに滴る汗まで鮮明に見える。
ランドセルの少年は友達と笑いながら歩いている。列車が通ると、ふとこちらを見上げた。
腕に抱かれた幼い赤子の僕。泣き声とは裏腹に幸福そうな両親の表情。
「ああ、あれはすべて僕だ…。」
列車「ゆかり」は、乗客の人生ゆかりの地を巡る列車だ。
少し惜しむような気持ちで、ぼくは終点までの間、車窓を眺めた。
「娘に会いに行くんですよ」
老婦人が丸眼鏡の奥、柔らかな目を細め言った。僕は微笑み返す。
トンネルを抜け、光と共に向かいの車窓から地元の風景が現れた。居眠りの間に、ずいぶん遠くまで来たようだ。
景色が万華鏡の様にみるみる姿を変えてゆく。
自転車を漕ぐ学生服の青年。その先の坂は急だが、難なく登っている。
中学校のグラウンドを走る少年。遠くなのに滴る汗まで鮮明に見える。
ランドセルの少年は友達と笑いながら歩いている。列車が通ると、ふとこちらを見上げた。
腕に抱かれた幼い赤子の僕。泣き声とは裏腹に幸福そうな両親の表情。
「ああ、あれはすべて僕だ…。」
列車「ゆかり」は、乗客の人生ゆかりの地を巡る列車だ。
少し惜しむような気持ちで、ぼくは終点までの間、車窓を眺めた。
その他
公開:20/10/11 11:50
縁
空津 歩です。
ずいぶんお留守にしてました。
ひさびさに描いていきたいです!
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https://twitter.com/Karatsu_a
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