秘密の花園

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「五十年前の私に。
君はこの手紙を目にするだろう。私が五十年前にそうしたように。
私の五十年の足跡を君が同じように歩むのかどうか私は確信できない。
私の人生は君が思うほど冒険的で素晴らしくもなく悲惨な事件もなかった。平凡だが味わい深い人生だった。
君が君の人生を存分に味わうことを楽しみにしている。
五十年後の私より」

ホームに人影が少ない。郊外の駅は乗客もまばらだ。長い間踏むことのなかった駅のホームに降りる。懐かしい。電車は金属の擦れる音をたてて出ていった。
徒歩で三十分。公園の林を抜けると廃墟に近い洋館がある。植え込みの間を抜けて離れの建物に入る。ドアの鍵はかつてと同じように開いている。埃っぽい部屋には瀟洒な木製のどっしりとした棚、抽斗が五段ある。三段目を引いて手紙を入れた。封筒には私の名。五十年前に小学生の私がこの洋館に遊んで忍び込み抽斗に手紙をみつけたことを確かな事実とするために。
その他
公開:20/10/12 10:17

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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