はじめに言って

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「む、何だこれは」
山で知らないきのこを見つけた男は、村の物知り爺に見せてみた。

「これはエニシダケじゃな」
「エニシダケ?」
「そうじゃ。食べれば人生の伴侶となる者とエニシを繋ぐと言われとる」
男はろくに信じもせず、晩の酒の肴にして食べた。

だが効能は覿面だった。男は都会から来た美しい女性と恋に落ち、やがて二人はめでたく夫婦となった。
しかし幸運は長く続かない。彼の妻が里に下りてきた熊に襲われたのだ。幸い命は無事だったが、その美しい顔には深い傷が残ってしまった。

「…災難だったのう」
「全くです。でも縁あって一緒になった身、何があろうと添い遂げると決めたんで」
「ほ、結構な心がけ。大切にしておやり」
男は照れて頭を掻いた。
「でも結婚早々、こんな壁にぶちあたるとは思ってもみませんでした」
爺はほっほっと笑った。
「そりゃ始まりがエニシダケだからな。きのこだけに『あたる』んじゃよ」
その他
公開:20/10/11 19:48
更新:20/10/13 12:40
縁コンテスト #3 きのこって不思議 ご注意: エニシダケは架空のきのこです笑 #87

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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