ユカリ教

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核戦争で疲弊した人類は、物質的な豊かさをもたらす既存の通貨ではなく、精神的な豊かさに真の価値を求めるようになっていた。
救世主として登場したノアは、「徳」という名の価値を確立し、その単位を「縁」と定め、世界共通の通貨を発行した。
通貨を得るためには、ユカリ教に入信することが原則となっている。教義に従い奉仕活動に勤しむことで徳を積み、その功徳に応じて通貨が分配される。
「ユカリ教への入信こそが救われるための唯一の術である」
ノアは唱え、その信仰に感銘を受けた者たちが続々と入信していった。
ノアのマインドコントロールで盲従的になった信者たちは、入信しない者たちを徹底的に迫害し、新たな火種をもたらした。
だが、その火種はしばらくして鎮火した。
核戦争の影響で地球全体が放射能によって汚染され、生物が住める環境ではなくなったのだ。
荒廃した大地に『縁』と書かれた紙幣が、風に吹かれて宙を舞っていた。
その他
公開:20/10/10 22:00
更新:20/10/10 21:23
核戦争 人類 通貨 価値 救世主 ノア 教義 功徳

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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