縁蛾(ゆかりが)

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闇の中で薄紫色の燐光がひらりひらりと浮遊している。目を凝らすと、それが翅を持つ蟲である事がわかる。

「縁蛾だよ」

何処かから声が聞こえる。

「灯に集まる蛾を火取り虫とも呼ぶだろう。縁蛾は言わば人取り虫、だ。夜になると、生きた人間が残した縁に群がる」

淡い光が集まって闇を照らした。縁蛾が群がっていたのは、ひしゃげたガードレールとそこに供えられた花束だった。

「…次の場所へ行こうか」

学校、商店街、駅、交差点。
縁蛾は様々な場所に揺蕩っていた。より縁が濃いほどに集まる縁蛾も増えるという。

一際多くの縁蛾が集まる一軒の住宅があった。僕はそこへ入っていく。
玄関を経て居間へ。燐光に導かれるようにして進むと、真新しい仏壇があった。白檀の香りと、写真立ての中で笑う青年。

「自分が何者か、思い出せたかい?」

ああ、そうだ。
ようやく帰ってこれた。
僕は安心して、ゆっくりと目を閉じた。
ホラー
公開:20/10/11 03:13

エビハラ( 宮崎県 )

平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…

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