欲望が溢れる前に。

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カフェに2人。こちらに足を投げ出し机に伏せる彼は以前、ピンヒールが好きだと言った。私が履くから好いのだと。だから。

がスッ

彼の足を踏みつけた。ヒールはスニーカー越しに肉と骨の感触を見つける。机上のコップが揺れる度、彼は恍惚とした表情を浮かべた。なんて、滑稽な。水面に映る私の顔が歪む。夕暮れの光に解けたそれは次第に彼を映し出す。その、目。その、物欲しそうな、眼。

「僕に付き合って欲しい」

特別な感情なんて何もない。膨れる欲望のはけ口を幼なじみに求めた、そんな、酷い人。表面張力でコップに留まる水はなんとも頼りない。そのまま口をつける。その姿でさえ絵になるような男。不意に差し出されたコップ。まだ半分以上残る水。懇願するような、瞳。

あぁ、もう。

ひったくるように受けとり、飲み干す。そして、思いっきり脛を蹴った。骨の感覚がかかとに響いた。私に出来ることは、これくらいだった。
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公開:20/10/11 01:26
更新:20/10/12 00:45
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