布団人間

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「鬱陶しいから離れて」
母の膝がするりと盛上がり、気がつくと私は蹴り飛ばされていた。ロケットが空中で体から部品を振り落とすのを、何かで見た事がある。今のはまさにそれだった。
「そんなん言わんでーや」
下腹をさすりながら、私はまた母に抱きついていく。
私は布団人間。掛け布団人間。決して敷かれる身ではない。

「もういいですってば」
彼女の手は見事に私の手を弾いた。ガンマンが空き缶を撃ち抜くように、私の手のひらはヒラヒラと宙を舞う。彼女に渡したはずの缶コーヒーは、薄暗いデスクの下に転がっていった。
「そんなん言わんでーや」
缶コーヒーを拾い、飲み口についていた埃を指でつまんで捨てた。
私は布団人間。掛け布団人間。決して敷かれる身ではない。

オフィスを出ると、蝉の鳴き声が鼓膜を這いずりまわった。汚れた地面からは陽炎がゆらゆらと視界を歪めさせる。

夏なのだ。

汗が染みて私は目を開けなかった。
その他
公開:20/10/10 23:56

まる

よろしくお願いします。

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