ひらひらと飛んで行った新入社員

巨大商社、八菱商事の入社式が終わり研修が始まった。
秋山まりもその一人。だが、ちょっと問題児と見られていた。
真面目で試験の成績も良かったのだが、ふわふわした性格で、一斉に同じ行動を取るのが苦手なところがあった。感受性も風変わりと思われていた。

研修期間の終わりも近づいた頃、人事役員が研修責任者を呼んだ。
「今年の研修生はどうかね？」
『それが、ほとんどの研修生は問題がないのですが、秋山まりという者が…』
「風変わりな人物とは聞いているが、彼女がどうかしたのか？」
『彼女が窓から外をぼーっと眺めていたのですが』
「ふむ」
『突然蝶のような羽が背中に生えて、ひらひらと何処かに飛んで行ってしまったのです』
しばしの沈黙ののち、役員は言った。
「ふむ、特に問題はないようだな。研修を続けてくれたまえ」
『分りました』

かくして、何事もなかったかのように研修は続けられた。