やまびこの欠片

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その小石を耳にあてると、たしかに聞こえた。ヤッホイ、ホイ、ホイ…。

「大輔くんは初めてかい?やまびこの欠片は。しかもそれ、お父さんのだもんな。驚くのも無理ないよ」
 
とは、父の山仲間だった小暮さんだ。父の命日が近づくと山に誘ってくれる。父が生前に通いつめた赤城の山々。眺望の広がる沼畔に立てば、人が一人いなくなったくらい、どうでも良いことのように思える。

やまびこは大声がすべて跳ね返るわけじゃない。山に当たった拍子に砕け散り、まれに長い時間をかけ石化するのもある。

「そんな欠片はね、また誰かが叫ぶヤッホーを待つんだ。似たのが来たら、今度こそやまびこになって消えるのさ。でも君のお父さんのはなあ…」

小暮さんはくつくつと笑った。口癖だったのかな、その独特の語尾はいつも自信たっぷりで…。

ヤッホーォイ!

大声が耳に届いた。思わず合わせた掌の間に、あったはずの小石は消えてしまっていた。
ファンタジー
公開:20/10/10 22:54

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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