ノートの住人（１）

ノートを開いて、ため息をつく。
いつもなら、庭を散歩しているのに、テスト期間に入ってしまったがために、こうして部屋に引きこもって勉強をしなくてはならないからだ。
二度目のため息をつきつつ、英語のノートを開ける。

　完了不定詞
Lisa seems to have mistaken inchworm for caterpillar.
（リサはシャクトリムシを芋虫と間違えたようだ。）

ものすごくどうでもいい例文だと思う。
リサはきっと、芋虫とシャクトリムシの違いに気がつけなくても、今後ハッピーに生きていけるだろうから。
そんな事を考えていると、視界の隅に、ひゅっと駆け抜けていった小さな人影を見た。
驚いて視線を投げると、再び、ノートの隅から、とっとっと、っと走り出てきたものがいた。
驚きで声が出ない。
出てきたのは、鉛筆で書かれた女の子だった。
私が、授業中にこっそりと書いたあの女の子だ。