回想家具店

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郊外の一軒の家具店に中年の夫婦が入っていった。
「いらっしゃいませ。ご自由にご覧ください」
夫婦はぶらぶらと歩いた。古いクローゼット。扉から古い歌謡曲が流れてきた。二人にとって思い出の歌だった。
デスクに便箋と万年筆。便箋は古めかしく書き出しの宛名は妻の名で間違いなく夫の筆跡だ。
テーブルには写真立て。フレームには数秒ごとに若い二人の懐かしい写真が次々と表示されていく。
窓にかかっているカーテンは、その昔、妻が揃えた新居のカーテン生地の模様とまったく同じだった。
キングサイズベッド。二人が見ていると掛けシーツの中央部がもぞもぞと膨らんでなかに誰かいるかのように動いた。何を連想したのか妻が顔を赤らめた。

中年夫婦は腕を組んで店を出ていった。
店員が「店長、お客さん、また何も買いませんでしたよ」
「いいんだよ。店に来て懐かしい気持ちになったお客さまはきっとまた足を運んでくださるから」
ファンタジー
公開:20/10/09 17:22

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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