星空のプーン

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辞めよう。今すぐに。
私はパイロットであることに意味を感じなくなり、茨城上空を飛行中に無線で退職を告げた。
明日から全ての便が自動操縦に切り替わる。パイロットという生き方はもうこの世界から消えてしまうのだろう。
私は副機長に操縦を託してコクピットを離れた。
落下傘による降下は吐き気がするほどこわくて、今後の人生を考える暇もない。
私は着地点を探しながら、夕暮れの眼下を走る旧式の銚子電鉄の灯りにぬくもりを感じて、乗ってみようと線路際の休耕田に着地した。けれどその車両も今は無人の自動運転で、私は乗る気を失くしてしまった。
そばには無人駅があって、何もない駅前に長蛇の列ができている。
「これは何の列ですか」
「去年まで豚だった蚊が飛んでいるの」
「それを見るために?」
「刺してもらうのよ。誰だって空を飛びたいでしょ」
私は列の最後尾に並んで、冬がきても蚊に刺されるのを待った。
星空に戻りたくて。
公開:20/10/10 13:42
更新:20/10/10 13:52

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