右手の呼び鈴じゃらしと左手のなで時計

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神社の境内に座っていた彼女は俺の方に近づきしゃがみこんだ。
「また来たの?」
(わ、悪いかよっ?!)
「あんたもヒマねー」
(ヒマじゃねえし)
「ま、別にいいけど」
彼女が右手に持つ「呼び鈴じゃらし」は想い人を呼び出してくれる道具だ。呼ばれた方は呼んだ人の居場所が分かりまっすぐ向かえるんだとか。
「君は待たなくていいよね・・・」
(誰だよ、そいつは)
俺は返事の代わりにあくびをした。
呼び鈴じゃらしを置いた彼女は俺を撫でる。彼女の手は柔らかい。でも表情は固いままだ。
(お前にそんな顔させるやつどんなやつだよ)
風が吹き、木々たちが合唱を始めた。
と、その時。
「やぁ!また会えたね!」
俺は声のする方を見た。男が立っている。さては左手の「なで時計」を使って来やがったな。撫でれば戻りたい時間に戻れる道具だ。
彼女は顔を上げない。瞳が微かに濡れている。想い人に見せられる表情じゃないようだ。
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公開:20/10/10 01:02

清水えまい( 東京 )

以前から書いてみたいと持っていたショート×ショート。
ようやく書き始めることができました。
自分自身楽しみながら執筆できたらなと思います♪

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