御縁マフラー

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定食屋に裏メニューがあるように、神社仏閣にも裏御利益があるものだ。
縁切りで有名なその古刹の朝市にそれはあった。
『御縁マフラー』
嘘か真か、この寺の縁切りで切られた運命の糸を集めて編み上げた、恋愛成就に大変御利益のある代物らしい。
──お兄さん、迷っているねぇ。
妖しげな香具師が言う。
──若いんだから、当たって砕けなよ。
「砕けたくないので買おうか迷っているのです」
──煮え切らないねぇ。物は試し、かけてみな。
香具師は黒いマフラーを俺に巻いてくれた。
なんと温かい。いや、暑いくらいだ。心の奥から熱く切ない恋心がぶすぶすと燃え上がる。黒く見えたマフラーの編み目の奥は茜色にチラチラと燃え、炭火のようで美しい。
気がつくと俺は香具師に金を払い、機関車の如き勢いであのこの元へと走っていた。
「この想い、今日こそ伝えるんだ!」

──ふふふ。頑張りな。伝えない事には私も御縁を繋げられないから。
青春
公開:20/10/08 17:35

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
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◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
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