遠距離恋愛

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ホールは大勢の人で賑わっていた。僕とリサはよくここで一緒に過ごす。
今日もラウンジで会話を楽しんだ。ふとリサの顔に憂いの表情が浮かぶ。
「どうしたの? 元気ないね」
「私たち出会ってどれくらい?」
「さあ1年くらいかな。なんで?」
「私たちこれからもこうなのかな」
「どういうこと?」
「いつになったら会えるんだろう」
「現に会ってるじゃないか」
「違うの、分かってるでしょ」
そう、僕たちがいるのは現実の世界ではない。ここはVRの中。本物そっくりに作られた虚構世界。
本当の僕は火星植民地の技術者。リサは地球にいる。僕たちはVRで出会い、実際に会ったことがないのだ。
「きっといつか会えるよ」
「そうね。私も火星に行ってみたいし」
「ねえ踊らない?」
僕たちはダンスフロアに飛び込む。赤や白や黄色の光がきらめく。ゆるやかなメロディーに包まれ、ふたりは踊り続ける。いつか会える日が来るのを夢見ながら。
SF
公開:20/10/08 06:21

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