最後の縁奏

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ふと目覚めると、その汽車にひとり揺られていた。車窓には、この世のものとは思えない美しい草原が広がっている。
夢でなければ、黄泉の国へ導かれているのだろう。
「もうすぐ縁奏が始まりますよ」
隣の車両からきた車掌が言う。
「演奏?」
「あなたに縁があるすべての人が奏でるものです」
「それで、縁奏てわけか」
どんな縁奏を聞かせてくれるのだろう。
耳を澄ますと、懐かしい曲。この世界を彩るように流れてくる。
夕空に思い出が走馬灯のように映し出された。
私を愛してくれた両親。学生時代の恩師、仲間。会社の同僚、上司。
そして、家族……。
「みんな、ありがとう」
握られた妻と娘の手は暖かく、とても優しかった。
やがて、空は闇に包まれ星が煌めき始めた。最後の呼吸、鼓動。私が奏でる縁奏は、終演を迎える。
「よく生きたな」
俯瞰で自分を見つめた。
私は旅立つ。
汽車は青い閃光に包まれ、夜空へ駆け上がって行った。
ファンタジー
公開:20/10/09 10:20
更新:20/12/31 15:28

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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