高級食パン店

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町に一軒しかない『高級食パン店』
そこの食パンは苦い味がした。
ある人はすっぱいと良い、ある人は濃い味だという
どうやら、人によって味が違うらしい。

久しぶりにそのパンを買いに行った日、
「もう、店を閉めようかと思ってるんです。」
と店主が言った。

「甘いパンを作ってるつもりが、最近は苦く感じてしまって。いつものレシピなのに。」
店主はため息をついた。

「私以外の家族は甘いっていってますけど。」
私が言うと、店主は笑った。
「あなたくらいですよ。味が苦いといいながら、買いに来る人は。」

そして、少し緊張した表情でこう続けた。
「最後になるかもしれないから、言っておきたいんですけど、あの・・・よかったら僕とつきあってもらえませんか。」

『ドクン』
心臓の音が鳴る。
「・・・私で良ければ!」
次の瞬間、急に店内が甘い香りに包まれた。

その日から、その店の食パンは甘い味になった。
ファンタジー
公開:20/10/09 10:10

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