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お盆の上の茶筒には「緑茶」ではなく、「縁茶」と書かれていた。
「おばあちゃん、これ字が違うよ」
「これはね、縁茶で合ってるのさ」
すると、おばあちゃんは茶筒からさじで茶葉をすくい、急須でお茶を淹れ始めた。
「縁茶ってのはね、ご縁がある人を想いながら淹れるのさ。その想いが香りを立たせ、ときには茶柱をも立たせる。もちろんあたしは、じいさんを想ったよ」
目の前にある湯呑みを覗くと、たしかに茶柱が立っていた。
「さあ、お飲み」
一口啜ると、丸みを帯びた茶葉の香りが口の中全体に広がった。
その後、わたしも縁茶を淹れてみた。お父さんを想いながら。
しかし、香りすら立たず、ただ苦いだけだった。
「いい縁茶を淹れるにはね、日頃から様々なご縁に感謝してなくちゃいけないよ。茶葉は人を見るからね」

あの日に思いを馳せ、天国にいるおばあちゃんのことを想いながら、今日も縁茶を淹れる。
ほら見て、茶柱が立ったよ。
その他
公開:20/10/07 11:21
更新:20/11/13 13:29

日常のソクラテス( 神奈川 )

空想競技コンテスト銅メダル『ピンポンダッシュ選手権』
空想競技コンテスト入賞  『ダメ人間コンテスト』
ベルモニー Presents ショートショートコンテスト入賞 『縁茶』
X (twitter):望月滋斗 (@mochizuki_short)

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