売り子の行方

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毎晩のように、道で声をかけられた。
逆ナン、とかそういう浮かれた話ではない。
道端を移動しながらカートに載せた果物を売り歩いている青年だった。

どうにも怪しい匂いの漂う、いわく有りげな商売らしかった。
どこから持ち出したのか判然としない割に高値のする季節の果物。いったい誰が買うんだと思った。ただ全力で売ろうとするその熱意だけは買った。
「ねえ君、努力の方向を間違えると、いつまで経っても報われないよ」

それが十年前のことだ。
ある夜、子どもたちが寝静まった後で、妻と晩酌を楽しみながら深夜番組をぼんやり見ていると見覚えのある顔が映った。四度目の起業で成功したベンチャーの社長だという。
「どうして諦めなかったんですか」
インタビュアーの問いに、彼は元気に答えた。
「右でも左でも、歩き続けていればいつかはたどり着くと信じてましたから」

私は顔が熱くなるのを感じ、ぐい、と酒の残りを飲み干した。
その他
公開:20/10/10 07:00
更新:20/10/10 06:16

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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