縁(ゆかり)ごはん

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幼少から心に穴がある。毎晩酔った父に辛く当たられたせいもあった。
寂しさは人との縁を探る力を、ご飯を通じて俺に与えた。
例えば最近できた食事処。先日親子丼を食べたら店主に縁を感じた。大人数なので記憶は薄いが以前工場のバイトが一緒だったらしい。髭面の大柄で威厳があるが、実は子煩悩だ。子を抱いて線路脇を歩き電車が通る度、親子で破顔する光景が伝う。他人の温かい記憶で寂しさを紛らわす為、俺は今日も来ていた。
厨房に見知らぬおばさんがいた。店主が客の会計をする間、ぎこちない「おまちどうさま」と親子丼が来た。
頬張ると縁を感じた。おばさんも線路脇を歩き、前に子を抱く店主がいた。おばさんは心で謝っていた。子に幼少の俺を重ねて。
記憶が蘇る。丼を傾け涙目を覆い、塩辛くなった白飯をかきこむ。心の穴は幼い頃に別離した母の愛だった。「おばちゃん親子丼おかわり!」
記憶というお袋の味を、まだ噛み締めていたかった。
その他
公開:20/10/07 23:30
更新:20/12/13 17:00
400字

文豪たこ( 神奈川 )

「30秒後に意外な結末」がテーマの140字ショートショーティスト。

面白ければそれでよし、と思って書く日々。

2020.7.15『影ができるスプレー』を初投稿。以降、約半年で150作品を執筆。

◎2020.11.15『ハロウィンの怪人』急上昇ランキング2位
◎12.05『星を見つけた』急上昇ランキング1位
◎12.19『無視される日本語』急上昇ランキング3位
◎12.25『高給な副業』急上昇ランキング3位
◎2021.2.6『ひねくれもの』急上昇ランキング2位

皆様からの「面白かった」が聞ければ、それ以上の喜びはありません。

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