鍵付きの死

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ひとりの男が死んだ。
妻と子がいて、傍から見れば幸せそうだが、ある日男は自ら死を選んだ。妻のすすり泣きと共に男は早速棺に寝かされ、別れを惜しむ人たちを待った。

大勢の人間が彼のもとを訪れた。
人々は花を手向けるふりをしてみんな自前の鍵を男の体に差し込んでいった。無遠慮にねじ込み、まわし、開かないと知るとつまらなそうに鍵を放り投げた。
「本当は言えない借金でもあったんじゃないのか」ある者はそう呟き、「よそに愛人がいたって話よ」ある者はそう口走りながら。

終いには男の体は穴だらけになった。
妻子はその穴を虚ろな目で眺めていた。
そのうち、もう死んでいるはずの穴から赤々とした血が勢いよく流れ出た。スポイトのように垂らされた透明ないくつかの涙がその赤を少しだけ薄めた。

「それでは」と言いながら葬儀屋が棺の蓋を閉める。
すると人々はすすり泣きの音を立てながら再び神妙な顔を作り上げた。
公開:20/10/07 15:47
更新:20/10/07 19:29

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