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「ただいま」
 家に帰ると妻とふたりの子供がしくしくと泣いていて、まるでお通夜のようだった。
 どうしたというんだ。誰も俺に気づかないのでもう一度言う。
「ただいま、おいどうした何かあったのか」
 皆が驚いて一斉に俺を見た。
「何って、死んだんだろ。今からお通夜だろ? 帰るの遅すぎだよ、父さん」
「は? 通夜? 誰が死んだっていうんだ」
 皆が俺を哀れそうな目でみる。え、まさか俺? 俺が死んだのか? 冗談だろ。
「何で死んだんだっけ」
「交通事故よ」娘が言う。
「最後に会えてよかった。私達、あなたのお陰で今までずっと幸せに生きてこられた。ずっとそれが言いたかったの。家族になれてよかった、素敵な縁をありがとう、ほら、そんな顔しないで笑って」
 妻の言葉に涙が溢れた。俺も幸せだった。俺は全てを思い出した。
 また、来世で会おうな。リビングにはもう家族の姿はなく、俺はそっと心の中で皆を見送った。
その他
公開:20/10/05 20:45
更新:20/10/06 11:31
コンテスト

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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