消えない、消せない、消させない。

｢ママァ、お砂糖が消えちゃったよぉ｣
｢え？｣
｢ほらぁ、僕の角砂糖が消えちゃった｣
｢ふふ、違うよ。角砂糖は消えちゃったんじゃなくて、とけたの｣
｢とけた？｣
｢そう。決していなくなったわけでも、消えちゃったわけでもないの。ちゃんとこの中にいるのよ｣
｢そうなんだ｣
｢うん｣
｢赤ちゃんも？｣
｢え？｣
｢お腹にいた赤ちゃんも、お母さんにとけちゃったの？ 女の子だったから、お母さんにとけちゃったの？ 今お母さんのどのあたりにいるの？ やっぱりお腹？それともおっぱいにいるのかな？まさか涙になってないよね？ねぇ、お母さん泣かないで。もしそこに赤ちゃんがいたら可哀想だよ？ねえ、お母さん泣かないでってば。お母さん、赤ちゃんを捨てないであげて。ずっとお母さんの中にいさせてあげて。涙も汗もおしっこもうんちも鼻水も血も何も流さないで。いつまでも、一緒にいてあげて。だって、いつまでもお母さんなんだから｣