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投石器から放たれた石が塞に降り注ぐ。焦げ臭いのは火矢を使い始めたせいか。あと二日で援軍が来るはずだが保たないだろう。
砂混じりの風に翻る旗の音。俺の傍らで陸小明が泣きながら繰り返している。来世でこの恩は必ず返すと。馬鹿な奴。別にお前を庇ったわけじゃない。そう言ってやりたかったがもう声は出ない。火長が小明を引っ張っていく。そうだお前は生きろ、最後まで。

やけにリアルな夢だった。まだ喉に砂が残っているようで何度もうがいした。いや夢のせいじゃない。鏡に映る喉の赤い跡。昨夜の気の迷い。
ティッシュで口を拭うと、切れたネクタイを捨てたゴミ箱の上に放り込む。
背後に気配を感じて振り返ると、あの夜拾った仔猫がいた。白い前足に葉っぱのような茶色模様。夢の中の小明の手の甲にあんなアザがあったっけ。
「今生じゃ、お前が俺の面倒を見るんじゃなかったのか、小明」
ふざけてそう言うと仔猫は初めてにゃあと鳴いた。
ファンタジー
公開:20/10/05 19:38

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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