縁屋―ゆかりや―

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『縁の糸取り扱っております 縁屋』
 入口の看板にはそう書かれていた。祥子は吸い込まれる様に奥へ入っていく。
「いらっしゃい」
 突然の声に祥子は驚く。もっと驚いたのは暗い部屋の中に赤く輝く無数の糸だ。
「これはね、縁の糸だよ。私はこれを繋げることも断ち切ることもできるのさ。お前はどうしたい?」
 祥子の頭の中に愛しい男の顔が浮かぶ。
「お前にはこの先何本もの縁の糸が見える。彼を選ぶと他の縁の糸は自然と断ち切られてしまうよ。それでもいいのかい」
 祥子は覚悟を決めて頷く。祥子の為に彼が別れを選んだのは知っている。
「この縁はまたすぐに切れるよ。それでも?」
「お願いします」

「彼が静かに息を引き取った」と祥子が店を訪れた夜、店主は切れた縁の糸を手に取った。そこには真新しい太い糸が繋がっている。思った通りだった、時に眩しい位の奇跡は訪れる。
 祥子が彼によく似た男児を産むのは、桜の咲く頃。
その他
公開:20/10/06 15:23
更新:20/10/07 13:15
コンテスト

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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