オクトーブの火

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彼のうなじで暮らすようになって5年になる。私が移住したばかりの頃彼の体にはまだ200ほどの夢や憧れが潜んでいて、可能性の塊と呼ばれていた。ただ私は、奥頭部の森でひっそりと暮らすために、他の夢に遭遇したことはない。
奥頭部は未開の地でお店などは一軒もなく、基本的には自給自足の生活だ。私が夜行性ということもあってどの部位にどんな夢が潜んでいるのかをずっと知らずにいた。だから私は調査の旅にゆく。
そんなときだ。彼が恋をしたのは。
それまで髪に無頓着だった彼が恋に落ちた途端、奥頭部の森に開発の手を入れた。相手の女性は美容師らしい。ふたりは閉店後の店内で急接近して、私が彼の鼻筋を調査していると、抱きあってキスをしはじめた。体陸は激しく揺れて夢の大半はその夜のうちにふるい落とされてしまった。
私は鼻孔に隠れる。夢は鼻に宿り、いつか心を熱くするいきもの。私はここで時を待ち、必ずや彼を焚きつけたいと思う。
公開:20/10/06 10:17

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