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「発車サインが鳴り終わると」アナウンスと同時に尻のポケットでぶるぶると震えた。満員電車、振り向くと後ろに女性。俺と女性に挟まれて振動している。「発車します」と同時に揺れる。俺はさっと体をひねり「それ」を取り出した。仕事のメールだ。握るだけで情報が伝わる。かつては画面がついていて指で操作したらしいが、今ではそんなものはない。「それ」は握りやすい石みたいである。俺の行動を記録し、望む先に情報を送ったり受けたり、音楽を聴いたり、ときにはじっくり話し合ったりする。俺のことを何でも知っていて、俺以上に何でも知る「それ」はいい話し相手である。
このごろ「それ」は一人で行動するようだ。俺が眠っている夜に這い出して泳ぐようにどこかに行く。朝には帰ってくるが濡れているので外に出たことがわかる。
先日、また電車で「それ」はぶるぶると震えた。隣の女性のバッグからも震える音がする。「それ」が仲間を作ったらしい。
その他
公開:20/10/04 15:10

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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