未来予報

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世の中に嫌気が差した夜。逃げるようにアパート裏にある小高い丘へ登った。
雨上がりの広場に来ると濡れた叢から鈴虫の合唱が聞こえた。僕は煌めきが点在する街を虚ろに眺めた。
想いは打ち明けたが、今度もダメだった。恋愛に縁は無いらしい。
この柵を越えれば…と良からぬ考えがよぎる。ふと真下にある僕が住むアパートを見た。なぜか2階の自室の窓から光が。電気は消した筈だ。
すると窓が開き、男女がベランダに出てきた。僕は思わず中腰になる。女性は赤ちゃんを抱き、あやしながら男性に微笑みかけた。微笑み返した男性は僕だった。二人は顔を上げ、夜空に瞬く星々を眺めていた。心から幸せそうだった。
僕は泣いていた。これは未来予報だ。稀に時空が歪み、未来が見える現象をそう呼ぶ。いつか何かの縁で彼女と出会うのか。未来は独りではなかったのか。僕はこの縁を信じる。彼女は実在する。
なぜなら今日、僕は彼女を雑踏の中で見たのだから。
青春
公開:20/10/03 23:22
更新:20/11/28 00:44
400字

文豪たこ( 神奈川 )

「30秒後に意外な結末」がテーマの140字ショートショーティスト。

面白ければそれでよし、と思って書く日々。

2020.7.15『影ができるスプレー』を初投稿。以降、約半年で150作品を執筆。

◎2020.11.15『ハロウィンの怪人』急上昇ランキング2位
◎12.05『星を見つけた』急上昇ランキング1位
◎12.19『無視される日本語』急上昇ランキング3位
◎12.25『高給な副業』急上昇ランキング3位
◎2021.2.6『ひねくれもの』急上昇ランキング2位

皆様からの「面白かった」が聞ければ、それ以上の喜びはありません。

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