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祖父と大掃除の最中、棚から落ちた古い紙箱が開くと、中から錆びた鉄の塊が出てきた。
「なにこれ」
手に掴むと、それが拳銃であることがわかった。
「銃刀法違反!」
「所縁の品なんだ、黙っててくれよ」
僕は深いため息を付いた。
「これ、使えるの?」
トリガーもシリンダーもすっかり錆びついていて、長年経った後に海中から引き揚げたような有様だ。
「駄目だろう」
僕は首を振った。
「誰のもの?」
「誰のものでもない」
訝しげに見ていると、観念した祖父は語った。

曰く大戦の末期、米兵(祖父は敵の同志と呼んだ)に追い詰められ、もう海に飛び込んで死ぬしか無いというところで、弾が一発だけ込められたその銃を岩場で見つけたのだという。

「死ぬ気で頭を撃ったんだ。外れちまったけどな。お陰でババアと五十年暮らせた」

僕は僕が生まれる前に辿ってきた長く険しい道を思った。
それは糸のように細い、細い道だったのだ。
その他
公開:20/10/09 07:00
更新:20/10/07 09:03
コンテスト

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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