巡る傘

20
11

 雨粒が子気味良く藤色の傘に弾かれる音を聞きながら、軽快に歩みを進めていた私は、一人のお婆さんに気がついて足を止めた。どうやら雨宿りをしているらしい。私は少し屈んで、さしていた傘をお婆さんに差し出した。
「ありがとうね。でも貴方が濡れてしまうでしょう。」
「私なら大丈夫です。」
「それならせめて、傘をお返ししたいので、連絡先を教えてくださります?」
「その必要はありません。かわりに、今度困っている人を見かけたら、この傘を私の代わりに貸してあげてください。」
 私のお願いに、お婆さんはありがとうと傘を受け取った。


 数ヶ月後の夕暮れ、俄雨が上がるのを古本屋の軒先でぼんやりと待っていた私に、一人の少年が藤色の傘を差し出した。
「あの、よかったらこの傘使ってください。俺、今は雨に濡れて帰りたい気分なんで。」
 私はお礼を言って傘を受け取ると、少年が立ち去った後、小さくおかえりと呟いた。
その他
公開:20/10/04 20:39
更新:20/10/04 20:49
初投稿

すずらん

ショートショートに興味を持ち、自分でも書いてみることにしました。初心者ですが、よろしくお願いします。コメントとても嬉しいです。ありがとうございます。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容