田緑風景

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「ここが○○先生が幼少期を過ごした生家です」
 取材のためにSF界の文豪ゆかりの地を訪れていた私は、少々がっかりしていた。辺り一面は田んぼだらけで、黄色く実った穂が旅人に向かってお辞儀をしている。辛うじて人工物と呼べるものは、道に沿って建てられた電柱ぐらい。
「何もないじゃないですか」その言葉を口には出さなかったが、案内人は私の目を見てゆっくり頷いた。
「ここは星がよく見えるんです。だから大先生も夜空に空想を描いていたのでしょう」
 私は一晩そこに泊まることにして、記事に載せるため星々の写真をいくつか撮って床に就いた。
 すると不思議な夢を見た。ゲコゲコ喋る緑色の宇宙人と一人の少年が、稲の中でグルグル鬼ごっこをしている――

 朝になり窓の外を眺めた私は、慌ててカメラを構えることになる。
 稲が踏みしめられたように、田園に描かれたミステリーサークルが、来訪者の存在を今はっきりと告げていた。
SF
公開:20/10/03 05:59
更新:20/12/31 22:00

はつみ

現実世界の2次創作
誰かに教えたくなるような物語を書きたいです

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