冨紀子の唄

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「優しい絶望の唄を聞かせて」
冨紀子は毎晩枕元で直也にそう言った。
真っ白で表情のない、陶器の仮面を思わせる顔。
俺はなぜこの女と暮らしているのだろう。
ある日、直也は気が滅入って、総菜屋で働く夏美と浮気した。
夏美といると精神的にヘルシーでいられる気がしたのだ。
浮気を始めて三日目に、冨紀子は飛び降り自殺をした。
冨紀子の通夜の翌日から、直也と夏美は同棲を始めた。
新居に冷蔵庫を運び入れる途中、夏美は足を踏み外して転倒した。
一瞬、完全に気を失ったように見えた。
「夏美、大丈夫か?」
夏美は胡乱げに「うん」と答えたあと、やがて小さな苦い果実を噛み潰すような笑みを浮かべた。
それから直也はどことなく夏美の様子が変だと思うようになった。
妙な鼻唄を唄う。
夜、ベッドの中で夏美は直也に囁いた。
「直也、こういう顔の女が好きだったの?」
夏美の顔に表情がなかった。
「優しい絶望の唄を聞かせて」
ホラー
公開:20/10/03 17:38

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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